「オレゴン・パシフィック・ハイウェイの奇妙で素敵な出会い」

世界一周701日目(5/31)

 

 

目を

覚ますと、そこには海が広がっていた。

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テントの内側と外側をひっくり返して中に入った砂を出した。

そろそろ行こうか。

 

 

 

 

ここはアメリカ、
オレゴン・パシフィック・ハイウェイ沿い

西海岸を見ながらのヒッチハイクも悪くない。
だけど、もう州立公園を目指して
ナイトハイクするのはもうやめようと思う。

 

 

 

駐車場へと出るとそこには二台ほどの車が停まってた。

ハイウェイを走る車の数は決して多くはなかったが、
ヒッチハイクをやれないことはないだろう。

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僕は州立公園へと入る車のために
車道がいくらか広がっているのを利用して親指を立てた。

駐車場に停まっていた車の一台がちょうど出て行くところだった。
僕は冗談っぽく大げさに親指を立てながら手を振った。

 

 

 

 

車が停まる。

 

 

え?うそ..??

 

 

 

 

「あまり先までは行かんぞ?」

そうドライバーのカールさんは訊いた。

アメリカでのヒッチハイクがどんなものかは分かっている。
一度に長い距離を移動することはできない。

それにこんな誰も来ないような場所よりかは
少しでも先に進みたい。

だから僕は「お願いします!」と車に乗せてもらうことにした。

 

 

少しクセのある英語で聞き取りづらく、
なんとなくしかカールさんの言ってることは分からなかった。

走り出すかと思えば、
すぐ先のビュー・ポイント(見晴らしポイント)で停まる。

 

 

「時間ならあるんだろう?」

そうカールさんは訊いた。

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しっかりとした予定を立てずに
気ままに旅をしている僕は「もちろん」と答えた。

そしてカールさんは50m先のビュー・ポイントに
車を停めて外に写真を撮りに行く。
ここら辺にはそういう見所があるのだろうか?

「何か探しているんですか?」と僕が訊ねると
「自殺者がいそうだろう?」と言った。
それは彼なりのブラック・ジョークかと思えるし、
「自殺者を捜しているんだ」とも聞き取れた。
そういう職業なのか?

 

 

 

「おれは四回死んだんだ。ゾンビみたいなもんさ」

彼のジョークのセンスが僕には全然理解できなかった。

 

 

 

 

カールさんの運転するワゴン車には
キャンプで使うらしい道具や食糧が積まれていた。
もしかしたら彼も旅をしているのかもしれない。

車を降りると、見晴らしのいいポジションで
スマートフォンでパシャリと写真を撮る。
そして車に戻って、また一つ先のビューポイントで停まる。

もしかしたら絶景マニアなのかもしれないな。

 

 

 

 

走り出して20分ほどの所にある
小さな村のガソリンスタンドに立ち寄った。
僕はいつものようにコーヒー買った。

カールさんはお菓子の他に
コーラとホットチョコレートまで買っていた。
きっと甘党なのだろう。

ガソリンスタンドの裏を回るようにして車を発進させ、
ガソリンスタンドの横でカールさんは車を停めた。

 

 

カールさんはおもむろにパチンコで使う
「Y」の字型になったものを取り出した。

木のデザインだが、それが本物の木ではいことは
質感からすぐに分かる。

カールさんはYの字の中心部分をライターであぶって
タバコを吸うようにYの字の足の部分に空いた小さな穴から
煙を吸い込んだ。

 

 

「お前も吸うか?」

「あ、ども」

 

 

あれ..、これ、タバコじゃなくね…??

 

 

 

 

 

 

 

 

そこからは

先ほどの同じようにひとつひとつ丁寧に
ビューポイントや州立公園を見てまわる。

気になる場所を回って行った。

ずっとそんな感じで回るものだから僕はようやく理解した。

この人は

「州立公園マニア」

だということに。

 

 

そして、彼の欲求を満たすべく、
オレゴン・パシフィック・ハイウェイの脇には
沢山の州立公園があるのだ。

まぁ、急ぐ旅でもないしな。こんな日もありだろう。

ご機嫌なドライブは続く。

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使っているのは旧型のiPhone「4」です。

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ちょっ、落ちたら危ないっしょ!

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ベンチの上からの方が良い写真が撮れますよね?

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時には薮の中へ!

 

 

 

 

 

 

どこかのビーチで車を降りたとき
カールさんは裸足になって濡れた砂浜へと歩いて行った。

僕もカールさんに習い、同じように靴を抜いだ。

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「写真撮りましょうか?」
と僕が訊ねると、カールさんは反対に
僕の写真を撮ってくれた。

自分の写真を見ることは慣れない時がある。
自分のイメージと違った時だ。
潮風に吹かれて髪のはだけた間抜け面の自分の姿を見て、
僕は少しがっかりした。

 

 

「どうだ?」

「いや、なんか微妙っすね。あんま自分の写真見るは」

「おれも同じだよ。いつも死にたくなる。
だけどな、こんな天気のいい日には生きたくなるもんさ」

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そう言ってカールさんはシャツのボタンをはずし、
左胸の上を触ってみろと僕に言った。

そこにはペースメーカーが埋まっていることが分かった

 

 

「心臓が停止したらこれが作動するようになっているんだ。
おれは今までに四回心臓が停まったことがあるよ。

死ぬのがどんなのか分かるか?真っ暗だよ」

 

 

 

テントウ虫が丸い石にしがみついているのを見つけた。

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それを慎重に枝の上に移し替え、
カールさんはそれを写真に撮った。
まるで一瞬一瞬を愛おしく思うように。

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死を身近に感じて、より一層、自分の身の回りのものが
美しく見えるようになったのかもしれない。

だからこそ、こんなにも美しいもの、
綺麗なものを求めて州立公園を訪れるのかもしれない。

息が止まるほどに美しい光景を見て病気が治る。
そんなおとぎ話のようなものを聞いたことがある。

 

 

いや、童話にだってあるじゃないか。

人々は自然から生きる力をもらう時があるのだ。

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カールさんがそう考えた上で、
このような巡礼を行っているのかは分からないが、
僕にはそう思えた。

足についた砂を払い、靴下をはき直して、
僕たちはまたドライブを続けた。

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アメリカで最長の洞窟がある
シーライオン・ケイヴ“という場所で停まった。

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ここでカールさんはご当地グルメのキャラメルなどを買い、
それらを少し僕にわけてくれた。

誰が買うのかは分からないが、
ビッグフットがプリントされたTシャツなどが売られている。

残念ながらシーライオン(アシカ)の姿を見ることはできなかった。

 

 

 

 

 

 

海辺のレストランで僕たちは食事をとった。

見るからに高そうなレストランで窓からはビーチが見えた。

時刻は17時だったが、日の長いアメリカでは
今が一日で一番海が綺麗な時間帯のように思えた。

外の音はまったく入ってこず、
窓は一枚のスクリーンのようにそこにあった。

キラキラと太陽の光を受けた海がきらめき、
そして、人々が海岸沿いを気持ち良さそうに
ゆっくりと歩いているのが見えた。

クラムチャウダーとコーヒーをごちそうになって、
僕たちは会話をあまりすることもなく、
ただただ海を眺めていた。

 

 

時々、あまりに素敵なことが起こり過ぎて、

『これは夢なんじゃないか?』

って思うときがあるんだ。

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空が

うすい雲で覆われ、日の光が届かなくなると、
州立公園巡りは徐々に面白みがなくなっていった。

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それでもカールさんは執拗に州立公園をひとつひとつ見てまわった。

それはやっぱり何かを探しているように思えた。

州立公園の看板が道路の脇に見えるとハンドルを切る。
そして車を降りずにゆっくりと州立公園内を走る。

どの公園にもキャンピングカーが一台や二台は停車しており、
そこで暮らしている人もいるんじゃないかって思えた。

もちろん州立公園内でキャンプするのは無料ではない。

だが、そこにはスタッフというものが存在せず、
公園自体はハイウェイのあちこちに「腐るほどある」のだ。
多いところではだいたい3kmごとにサインが見える。

どうしてこんなに州立公園だらけなんだろう
と疑問が浮かぶほどに。

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完全に日が沈むと僕はウトウトしてきた。

もともとあまりなかった会話も息絶え、
何か話しかけられても、ニュアンスが分からない。

単語は聞き取れるけど、
何を言っているのかよくわからないのだ。

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Reedsport(リーズポート)という町の
ガソリンスタンドで立ち寄った時、
カールさんはこのまま自分と先に進むか
それともここで降りるか?と僕に訊ねた。

僕はこれ以上州立公園をめぐるのにうんざりしていたので、
ここで車を降ろしてもらうことにした。

これ以上先に進むよりも、
明日の朝この町からヒッチハイクを再開した方が
いいようにも思えた。

マップアプリを見ると、出発した場所から
100kmも進んでいないことが分かった。

 

 

カールさんにお礼を言って別れた。

マクドナルドに向かい、
いつものようにコーヒーだけ注文してテーブルについた。

 

 

 

 

しばらくして店員が紙袋を渡した。

 

 

「これ、そこの方から「君に」って」

中にはハンバーガーとポテトが入っていた。

心がじんわり温かくなる。

 

 

 

オレゴン・パシフィック・ハイウェイの
奇妙で素敵な出会い。

 

 

 

違うよな。

進んだ距離なんかじゃないよな。

旅ってこうだよな。

 

 

 

今日もありがとう。

 

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