「今日はこのカフェで」

世界一周265日目(3/20)

 

バラナシで今日から
旅する漫画家である僕の生活が始まる。

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今泊まっている
「サンタナ バラナシ」には
残念ながら漫画を描くのに
丁度良い机はない。まずは場所探しだ。

僕には僕の旅がある。

バラナシで漫画製作の作業場を探す。
それも僕にしかできない旅だ。

 

 

トースト3枚とスープの朝食をいただき、
僕はさっそくバラナシの路地をうろつき始めた。

ゲストハウスが集まる周辺には
観光客向けのカフェがいくつもある。

漫画製作初日。僕が入ったのは

「CHANDAN RESTAURANT」

というこじんまりとしたカフェだった。

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テーブルの高さもいいし、
暗過ぎず、かといって直射日光が
当たるというわけではない。

オーケー。ここでなら漫画が描けそうだ。

 

とりあえず、30ルピー(50yen)の
プレーン・ラッシーを注文して、
原稿用紙の裏に漫画の構想をメモし始めた。

前回、ネパールのポカラで
漫画製作をしてからずいぶんと
期間が空いてしまった。
確実に腕はなまっているだろう。

僕にはそのなまった勘を
取り戻さなければいけない。

 

構想、絵の下描き、ペン入れまでを
短時間でこなすには、
やはり1ページの漫画の方がいい。

イラストをどんなに描いていても、
漫画の腕は上がらないことはわかっている。

僕はそういう漫画家なのだ。

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自分が何をすべきかはわかっていても、
頭はなかなか
「これだ!」
というアイデアを
生み出してはくれなかった。

一時間が経過するころ、
僕はチャイを一杯追加注文した。

カフェという空間の中で、
この後も僕は何時間も同じテーブルで
漫画を描くことになる。

お店の人にとっても
ずっと居座るお客さんは厄介な存在だろう。

ほどよくオーダーをすることによって、
お店の人も僕という存在を
受け入れてくれるはずだ。

もちろん、混雑すれば出て行くし、
お店の人から席を外すように言われれば、
素直に出て行くつもりだ。

 

 

 

話は一向に浮かばない。

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オイオイ。たかだか1ページだぞ?
練習用だろう?何をそんなに考えているんだ?
旅の毎日なんて漫画みたいなものじゃないか。

いいや。
僕はできるだけ自分の経験を
切り売りしたくないんだ。

腕は確かに鈍っている。
ギターなんて弾いている場合じゃ
なかったのかもしれない。

あのダージリンやシッキムの
あの環境でどうやって漫画を描くっているんだ?
だからこそ、今ここでガッツリ
描こうとしているんじゃないか。

 

くだらない問答が自分の中で繰り返された。

 

 

 

 

 

時々
原稿用紙から顔を上げて、
バラナシの通りを眺めた。

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Tシャツ、細身のジーンズ、
サンダル姿のオーソドックスな
スタイルの若い男の子たち。

サリーを身にまとった、
どっしりとしたおばちゃん。

口ひげを生やした体格のいいおっちゃん。

オレンジ色の服を着たサドゥー。

タイパンなどエスニックな
動きやすそうな服を着た欧米人ツーリスト。

グループで行動する韓国人のバックパッカーたち。

脇目も振らずにスタスタと歩く日本人。

 

絶えることなく、
様々な人たちが僕の前を
通り過ぎていった。

僕はそんな人たちの姿を
飽きることもなく眺めていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

いいアイデアも
思い浮かばないまま路地に目をやっていると、
自転車の荷台に大量の布を固定して押す
日本人らしき男の人の姿を発券した。

5メートル先のお店で
布を購入しようとしている。

あれはもしかして雑貨屋なんじゃないか!?

僕はテーブルから貴重品だけ持って、
その雑貨屋さんらしき人のところへ駆け寄った。

 

「あのぉ…
もしかして、日本人の方ですか?」

「はい」

「雑貨屋さんで
いらっしゃいます?」

「あ、ちょっと待ってね」

その男の人は、お店の人との
商談の最中だったらしく、
英語で布屋の主人と話始めた。

僕は邪魔してはまずいと思い、
側で話が終わるのを待っていた。

 

「何を仕入れられたんですか?」

「ベッドカバーとかかな?
オーダーメイドして作ってもらってるんだ。
それに雑貨屋っていうわけでもないんだ」

 

伸ばした髭に長く結んだ髪。
履き込むことによって
ダメージが入ったジーンズ。
ポケットから出すコイン・ケース。
どことなくやさしい雰囲気を持つ人だった。

インドで手に入れたであろう自転車は
ボロボロなのにもかかわらず、
なぜかオシャレに見えた。

僕はポケットからiPhoneを出して構えた。

 

「その自転車いい味でてますね。
写真撮らせてもらっていいですか?」

「やめてくれる?」

一瞬空気がピリついた

 

「あ、すいません…。
え~っと…、
いきなり話しかけてしまってすみませんでした。
お話聞かせていただきありがとうございました」

 

そうお礼を告げて
僕はカフェのテーブルに戻った。

 

 

世の中には写真に
撮られることが嫌いな人もいる。
突然のインタビューによって
不愉快な想いをさせてしまったのかもしれない。

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昨日、「カエルダッシュ」の翼さんに
一方的に質問をぶつけてしまったことが
心にひっかかっていた。

もしかしたら、彼らにも
嫌な思いをさせてしまったのかもしれない。

 

そう考えだすと、
初めて会った人に話しかけるのって
難しくないか?
とかそんなことを
考えだすようになってしまった。

 

だが、得たものもある。

僕は彼らの話を
聞かせてもらうことによって、
情報を得たり、自分の世界を
広げることができたことは間違いないだろう。

 

 

傷つくことを恐れていたら、
何も得ることができない。

 

 

それが、今現在の僕の考え方だった。

嫌われたっていい。

勇気を出して人に
ぶつかっていかないと、何も開けてこない。

傷ついたのならそれでいい。

 

 

屋根伝いに猿がやって来そうになると、
お店のおっちゃんは
BB銃を手にして猿を追い払った。

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そして、時々上から水が降ってくる。
雨樋の水が氾濫したのだろうか?
でも、今雨は降っていないし。

「あれはなんなの?」と訊くとお店の人は

「モンキー・ウォーターさ」
と言った。

なんのことやらさっぱり。

 

欧米人の女のコの頭に
上から降ってきた水がかすめた。

見上げると猿。

分かったぞ。

モンキー・ウォーターって
猿のおしっこか。

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太陽が
徐々にテーブルを照らし始めてた頃、
僕はようやく下描きに入ることができた。

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「あちぃ…」

 

だが、絵も思うように
描くことができない。

構図の取り方もなまってしまったのだ。

 

そんな時、韓国人の女のコと男の子が
僕のテーブルの前に立って言った。

「あなたのこと、
ダージリンで見たよ!
私たちのこと覚えてる?」

「え~っと…いや。
なんとなく」

 

確かにダージリンで最終日に
バスキングをやっていた時、
ずっと聴いてくれていた
韓国人の男の子と女のコがいた。

でもどちらもニット帽や
キャップをかぶっていたし、
服装が違うと印象が異なる。

 

「今何やってるの?」

「漫画を描いているんだよ」

「えっ!何コレ!!?すごい!
あなたって、
ミュージシャンじゃなかったのね」

「まさか。
こっちが本職さ。
っていっても、まだアマチュアだから
無職なんだけどね」

 

韓国人の女のコの
目の輝きようを見ていたら、
少しだけ元気になった。

僕はすごい単純だ。

こういうシンプルで
ささやかなことが僕を元気にさせてくれる。

 

太陽がテーブルをすっぽり覆ってしまうと、
僕は直射日光から逃げるように
テーブルを移り、また追加注文をした。

 

 

 

 

漫画製作一日目。

枠線、セリフ入れを終え、
ペン入れ途中までやって終了した。

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ポカラに比べていく分か
やりにくさを感じないわけでもなかった。

環境の異なる所でやると、
描いた感触も異なってくる。
それが旅をしながら漫画を描くということだ。

 

お支払いを済ませて僕は
お店の人にお礼を言った。

「あざっす!
良い製作現場でした。
明日も使わせてもらいます!」

「お前さん、
今日7時間もいただろ?
それはよくない」

 

その一言に
「もう来ないでくれ」
と遠回しに言われていることは分かった。

 

やれやれ。

明日もまた新しいカフェを
探さなくちゃならないなんて。

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ささやかな旅する漫画家シミの日誌。とりたてて変化のない。単調な毎日。

よかったら遊びに来てください。完成した漫画もiPhoneで撮った写真じゃ見にくいだろうけど、まぁよろしくね。

 

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