「おれ、生きてるよな?」

世界一周704日目(6/3)

 

 

「おれ、

生きてるよな?」

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テントを立てた河原にはほとんど人が来なかった。

おかげで8時過ぎまで眠ることができたが、
砂利の上にテントを張ったため寝心地はあまりよくはなかった。

 

 

頭の状態は昨日と比べてみるといくらかは元に戻ったようだ。

起動に時間のかかるパソコン状態。

いつになったら元に戻るのだろう?
これは病気の一種なのだろうか?と考えると心配になる。
保険の切れた状態では病院になど行けないのだ。

 

 

日本に帰ってもこの状態が続いたとして、
その後の僕の人生はどうなってしまうのだろうと考えた。

他の人からみたら何ら変わりのない状態だが、
本人は実感や感覚が鈍い。

僕は誰かに言うだろう。

「自分の一部をどこかに置き忘れてきちゃったんだよ」
って。

「スプートニクの恋人」に同じ様な話が出て来たな。

 

 

 

 

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ついにブーツがオシャカになりました…。
メキシコでソール交換しよう。

 

 

 

いや、僕の半身はどこかで別の世界に
入り込んでしまったのかもしれない。

本当の自分はどこかで死んでしまって、
パラレルワールドで僕は生き続けているのかもしれない。

ってことはこれは夢の続きか。
夢だった世界一周がほんとうに夢に変わっちゃっただなんてね。
まぁ、それも悪くないか。
最近夢のような出会いがあったらからなぁ。

 

 

 

漫画家はそんな妄想をする。

 

『果たして自分は生きているのだろうか?』

と。

 

 

それでも僕の肉体は存在する。

まぁ、体だけになったとしても旅を続けようじゃないか。
旅の最終目的地はまだここじゃない。
僕には帰る場所があるのだ。

 

 

 

 

 

 

マイペース

にその場を後にし、
ガソリンスタンドでコーヒーを飲んだ。

やっぱり頭は元の状態には戻らなかった。
不安になっても仕方がない。

 

 

適当な場所で親指を立ててボードを掲げた。

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一時間くらいして車が停まった。

中には6人の子供たちとお母さんが乗っていた。

お母さんはまだ20代に見えた。
おそらく外国人しか似合わないであろうツーブロックに
前髪だけ長く伸ばしており、そこだけ女性的に見えた。

彼らの目的地はクレッシェンド・シティ。

ついにカリフォルニアだ。

 

 

 

『バイバイ。オレゴン』

 

 

 

僕は心の中でそう呟いた。

大好きなポートランドのあるオレゴン州ともここでお別れ。

そしてついにカリフォルニアだ。
一体どんなアメリカがそこにはあるのだろうか?

 

 

車の中ではずっと子供たちとお喋りしていた。

女のコ一人を除いてみな一様に短髪の坊主頭。
それがどこかおかしいし、家族のカラーが感じられる。

僕はハーモニカとタンバリン、マラカスを取り出し、
それを彼らに貸してあげた。
子供たちはそれぞれ自分勝手に楽器を奏でた。

 

 

お母さんは

『いつかはインドに行ってみたいのよ』

と僕に言った。

 

 

「アメリカ人ってビザが取りにくいんですかね?」

そう僕は訊ねた。

「さぁ?難しくはないんじゃない?」

「そうですか。それならオススメですよ。
僕の一番大好きな国です」

きっと子供たちが手から離れた頃に
ご主人とインドを旅するんじゃないだろうか?

 

 

「いつかインドで会いましょう!」

お母さんはそう言って
クレッシェンド・シティのフリーウェイの入り口で
僕を降ろしてくれた。

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カリフォルニア

に入って僕は少し緊張していた。

 

ここが僕がイメージする「アメリカ」に違いない。

西海岸、サーフィン、音楽、映画、etc。

日本のカルチャーはアメリカの影響を多分に受けて来た。
それはいまでも続いていると思うけど、
自分が幼い頃に慣れ親しんだ
アメリカン・カルチャーがあると思うとワクワクしたし、
そんな期待をしてカリフォルニアが僕を受け入れてくれるのか
不安に思ったりもした。

 

 

フリーウェイの入り口で同じように親指を立てた。

行き先は「South(南)」、目指すはサンフランシスコだ

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ドライバーからのレスポンスは好調だった。
みな運転席から何かしらのハンドサインを送ってくれた。

歩行者のフリーウェイへの侵入は禁止されたいたが、
奇妙なことにヒッチハイクをしていると、
何人もの人がフリーウェイへ向かって歩いき、
フリーウェイ沿いの森の中へと消えて行った。

抜け道があるのかもしれない。

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一時間ほどで車が止まってくれた。

乗っていたのはマダムの姉妹で、
カーステレオからは60年代の音楽がかかっていた。
車の中にはキャンディーという名前の小型犬がいた。
ところどころ毛先をピンク色に染められている。

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「60年代って言ったら
ヒッピーの全盛期ですかね?」

「あれは60年代の終わりよ!
よかったわね~!また戻りたいわ♪」

そうとうご機嫌な時代だったのだろう。
二人のマダムは楽しそうにそう言った。

 

 

 

 

僕は西海岸沿いのフリーウェイ「101」を走っていた。

フリーウェイ沿いからは海が見えるか、
もしくは緑で覆われる木々の間を抜けるかのどちらかだ。

映画の中で見たような
カリフォルニアの大自然がそこには広がっていた。

僕は何度も
「すげぇ..」と口にした。

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姉妹にはフリーウェイの真ん中で降ろしてもらった。

「ここがヒッチハイクにぴったしよ!」とは言うものの、
交通量はほとんどなく、車が停まるスペースもない。

ヒッチハイクを再開する前に、
近くのガソリンスタンドでマフィンとバナナを買って食べた。

 

 

 

 

 

再び頭がボヤボヤしてきたのは、
ガソリンスタンドの外でマフィンを食べている時だった

 

 

食べているという実感と記憶が鈍くなる。

『あれ?おれいままで何してたんだっけ?』
思い出せることには思い出せるのだが、実感が薄い。
これってほんとうに病気なんじゃないか?

そう言っても休めばいいものではない。
睡眠もしっかりとった。コーヒーも飲んだ。食事だってとった。
じゃあ何が原因だっていうんだ?

カナダに来てから乱れに乱れた食生活で
脳に必要な栄養が不足したのか?

考えても原因はわからぬまま。

 

 

 

ボヤボヤしながら
ヒッチハイクができそうな場所まで歩いて戻り、
親指を立てた。

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『止まるわけねぇ…』

 

 

 

フリーウェイを走る車は速度に乗っており、
勢いよく通り過ぎて行った。

時間の感覚も鈍かった。

もしかしてこれは脳みそが
勝手に「省エネ」モードに切り替わるようになってしまった
のかもしれないな。僕はそうも考えた。

人間の脳は正直で「疲れた/退屈だ」と感じると
眠くなるようにできているらしい。
ヒッチハイクの待ち時間を脳が「退屈なこと」と判断したのだろうか?
じゃあどうやったら解除できる?

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あっという間に一時間が経過した。
車が止まってくれる気配はなかった。

iPhoneからジャック・ジョンソンの「To the Sea」を流した。
アルバム一枚分の時間がすぐに去っていった。

立ちっぱなしで疲れた僕は休憩も兼ねて
バックパックに腰をかけながら親指を立てた。

普段ならこんなやる気のなさそうな姿でヒッチハイクはしないが、
脳みそもこんな調子だ。体が疲れたか実感がないので、
『そろそろ休んでおいた方がよさそうだな』と判断して
座ったままの体勢で親指を立てた。

 

 

 

 

 

15分もしないで車が止まってくれた。

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あ、ありがとうございます。

 

 

 

ボヤボヤ頭を抱えて車に乗り込んだ。

乗っていたのは無口なカップル

彼女の方が車を運転していた。名前をサラと言った。
彼氏の方は名乗らなかった。

彼らの目的地は今いる場所から1時間ほどの距離だったが、
アメリカでのヒッチハイク一時間はかなりありがたかった。

無口なカップルに二人に加えて、
後部座席に座ったので会話も少なめ。
睡魔は感じなかったのに気づけばウトウトしていた。
やはり体は疲れているのだろう。

 

 

 

 

 

 

 

どこかの

観光地に近いガソリンスタンドで僕は車を降ろしてもらった。

物価がオレゴン州にくらべて1.5倍近く上がった様な気がした。
眠気覚ましにコーヒーを飲んでは見た物の、
依然として覚醒には及ばない。

 

 

ガソリンスタンドの脇でバナナチップスを食べていると、
メキシコ人系の女のコが「これ食べる?」と言って
食べかけのタコスとパームの葉に包まれれた
チマキのような食べ物を分けてくれた。

「弱った時は喰うべし!」

そんな言葉が頭に浮かんだので、その場で完食した。
どこが満腹なのかも分からなかったが、食べ終わると
どこか気持ち悪い様な気になった。

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むぅ…、味もよくわからん。

 

 

 

 

 

そのチマキのようなものを胃に収めると
僕はまたヒッチハイクを続けた。

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30分もしないで次に止まってくれたのは、
柄の悪い男たち3人組だった

車の中にはごみが散乱しており、
後部座席に座った男は缶ビールをちびちび飲みながら
独り言を言っていた。

『今度こそおしまいか?』と思った。
こんなボヤボヤした状態で殺されたらシャレにならないよ。
きっと死んだって実感もないかもな。

 

 

三人組は数マイル先のガソリンスタンドで僕を降ろしてくれた。

 

 

「セーフ・トリップ!」

ドライバーの男は僕にそう言葉をかけてくれた。
彼らの外見からは想像できない言葉にどこかクスりとした。

 

 

 

 

 

 

 

一体、

今日だけで何台の車に乗せてもらったのか分からない。

ただ、分かっていることは僕はこうして今も生きていて、
ヒッチハイクを続けているということだった。

パラレルワールドの入り口はどこにでもあるような気がする。

自分の存在を疑うとそれは哲学の世界にも通ずる気がする。
ははん。なるほどね。ちょっと分かったよ。

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次に僕を乗せてくれた人も最高にファンキーな人だった。

ヴィンテージのベンツに乗るカレンは文字通り「独身貴族」だった。
後部座席には毛皮のコートとチアッワ。
トランクにはアメコミが山積みされたいた。

スレンダーで短髪。見るからにアクティヴな感じ。
ボーイフレンドも何人もいるらしい。

45エーカーのマリファナの畑を所有しているらしく、
それがかなりの収入になるらしい。
人生をエンジョイしているのだということはすぐに分かった。

 

 

「ガールフレンドはいるのかしら?」

「まさか?こんなフラフラ旅をしてるんですよ?
逆にどう作るのか教えて欲しいですね」

「はは~ん。じゃあ子供たちが世界中にいるのね。
色んな国でファックしまくってるんでしょ?」

「はっはっは!
それいつか漫画で使わせてもらいます!」

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降りる時にいつもお願いしている写真も
このポーズで応えてくれました!

 

 

 

カレンにはユーレカという町のはずれでおろしてもらった。

このユーレカという町は治安が悪いらしく、
ヘロインの売買も行われているらしい。
僕はこの町からできるだけ離れたかった。

カレンからもらったバニラ味のタバコを吸うと、
いくらか頭がスッキリした。

 

 

 

時刻は16時。日の長いアメリカなら悪くない。
次のヒッチで最後になるだろう。

町外れだが、車はスピードに乗っている。

僕は風の吹く中、無理矢理テンションを上げて
南行きのボードを掲げた。

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本日最後

の車は1時間後に止まってくれた。

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ヒッチハイクの面白いところは
会うべき人に会うというところだ。

どんなに長く待たされても、
『あぁ、おれはこの人に会うために待っていたのだな』
と思える。

 

 

ドライバーのシェンは中華系で大きな眼鏡をかけていた。

英語はもちろんネイティヴ。そしてマシンガントークだった。
こんなおしゃべりな中華系のネイティヴに
僕は会ったことがなかった。

旅好きということで
つい最近まで三年に及んで世界中を旅していたそうだ。

そして何より驚いたのだが、彼女もヒッチハイカーで
僕よりもずっと経験豊だったことだ。

アメリカ国内はもちろんのこと、
東南アジアでもヒッチハイクをしたことがあるらしい。

 

 

「でも、東南アジアでヒッチハイクだんなんて
危なくないですか?」

「そうとも限らないのよ。
例えばカンボジアなんて最高よ!
ヒッチハイクの文化を知っていて止まってくれるのは
大抵裕福で教養のある人が多いわ。
タイなんて笑っちゃう。
バスの運転手が止まってくれることもあったっけ。
ラオスでもヒッチハイクしたことあるわよ♪」

「東南アジアだったらバスが安いじゃないですか?
なんでヒッチハイクなんてしたんです?」

「私には厳格な予算があったのよ。一日18ドル。
それ以上は絶対に使わない」

 

 

18ドルもあったら贅沢ができそうに感じたが、
彼女の口からは絶対的なルールのようなものがあるように思えた。

きっと別のところでお金をかけていたんだろう。

彼女は世界中のビールを飲んで、今自分のビールを造っているらしい。
それをビジネス化するのだとか。

 

 

僕が先ほどマリファナ畑を所有しているカレンの話をすると、
7月はマリファナの刈り込みで金が稼げることを僕に教えてくれた。

「来月戻ってくればどこででも仕事があるわよ。
私なんて一日に250ドルは稼いでたから」

マリファナがそんなにビジネスになるとは思わなかった。
だからここも合法化したのか。

大麻の刈る仕事を一ヶ月しただけで、
シェンはその後9ヶ月旅を延長することができたそうだ。

お金のない僕には夢のような話に聞こえたが、
それは何か違う気がした。僕は一方通行に進んでいる。
後戻りはナシだ。そんなシンプルな理由からだった。

 

 

 

「今日はどこに泊まるの?
ってキャンプよね。
私がとっておきの場所を教えてあげるわ♪」

 

 

そう言ってシェンはハイウェイを離れ、
車で15分ほど行った山道に僕を連れて行ってくれた。

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樹齢3000年という大木は
映画の中の世界に迷い込んだような錯覚を僕に与えてくれた。

タコスとグレープフルーツ、マンゴーを頂いて、
僕は川辺に案内してもらった。

 

 

「ここなら誰も来ないわよ。
水温も冷たくないから体も洗えるわよ」

シェンはそう言って去って行った。

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彼女の住んでいる場所は山奥らしく、
こうして二日に一回食糧の買い出しに町へ行くとのことだった。
出会いとは本当に分からない。

日付や時間がズレていただけでその人に会えないこともあるからだ。

 

 

 

 

 

 

「おれ、生きてるよな?」

 

 

 

夢だったことを叶えている最中に夢のような出来事が続く。

茂みに野糞をして、
川の水で携帯ウォシュレットを使って尻を洗った。
カフェから余計に持って来たペーパーが役に立った。
千年杉の養分になるだろう。

 

 

テントを張って、中でギターを弾く。

日が沈むと当たりは真っ暗になった。
曇ってさえいなければ満点の星が見れたことだろう。

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