世界一周818日目(9/25)
予定の時間よりも早く目が覚めた。

近くを人が歩く足音が聞こえる。
ここにテントがあっても
そんなこと全く気にしている様子は感じられない。
足音は一定でそして遠ざかって行った。
サンダルか裸足だろう。「ペタペタ」とした足音だ。
聞こえたのは一人や二人じゃない。
僕も予定より早く起きなければならなかった。
それ以前に深夜に降り出した雨のせいで寝袋が濡れていたので
全然眠ることができなかった。
ここはパナマの国境の村、プエルト・バルディア。

だんだんと朝日が高く昇り、村をじわりじわりと照らしていく。
空には薄い雲がかかっているのでまた日光はたびたび遮られた。
そんな中、僕は開店前の食堂の屋根の下で
テントや寝袋なんかが乾くのをただ待っていた。
生乾きのボクサーパンツをそのまま穿いた。
パンツ一枚ってキツイね…。
7時前には食堂のおばちゃんがやって来た。
鼻息をフンフン鳴らしてながらぶつくさと何かを言い僕を追っ払った。
くっそぅ…。
仕方がないので食堂のすぐ横に荷物をズルズル引きずって
そこで濡れた物を乾かした。
結局テントは八割型乾いたが寝袋は濡れたままたたんだ。
海沿いの村に吹く風は湿度を含んでいる。
みんなどうやって洗濯物を乾かしているんだろう。
バックパックを背負って向かった先はイミグレーションだ。
もちろんこんな辺鄙な場所にもイミグレーションがある。

オフィサーはスマートフォンから音楽を流しながら作業をしていた。
パスポートを渡すとパラパラとページをめくり
「コピー用紙を二枚」と言った。
はっ?んなこと聞いてねえし。…まてよ?
僕は以前どこかの国でパスポートの顔写真ページを
余分にコピーしたことを思い出した。
サブバッグを漁ってみると印刷の薄れたコピー用紙を
ちょうど二枚見つけることができた。
僕はそれを得意顔でおっちゃんに渡した。
まさに「ドヤっ!」って感じだった。
「イッツ・ノットグッドだな..」
「はあ???」
「そこにインターネットカフェがある。
そこでコピーしてこい」
そう言っておっちゃんは
他の者のパスポートコピーを僕に見せた。
この馬鹿さにつくづく飽きれる。たかだかコピーだろう?
インターネットカフェの前には人が取り囲んでいた。
どういうわけで朝も早くからネットカフェに
並ばなくちゃいけないのか分からないが大体は地元民だった。
開店まで15分ほど時間があった。
中では三人くらいの店員が開店の準備をしている。
そのうち一人が掃き掃除をしていた。
いや、開店8時なら先に掃除しておけよ。
って言ってもここは日本じゃない。

辛抱強く開店時刻まで待ち、
時間になるとすぐさま僕はパスポートのコピーがとりたいのだと
店員に伝えた。
「ここじゃできないよ!別のとこに行きな!」
このアホンダラっ!!!!
そろそろ誰かの頭を一発くらい
「パシーーーンッッ!!!」って
思いっきり叩いてもいいんじゃないかと思う。
めちゃくちゃ満面の笑みで♪
しかもヤツらの言うことはかなり曖昧なので、
結局自分の足を使ってどこでコピーができるのかを
探さなくてはならなかった。
幸い別のネットカフェでコピーをすることができた。

形式は横長の紙を中心にパスポートを縦開きにして置く感じ。
知らなければ他の旅行者も間違えるだろう。二枚で1ドルちょっと。
そうして再びイミグレーションに足を運び、
無事出国のスタンプをゲットすることができた。さっさと次の国行こう。
ここから
カプルガナ行きのボートが何時に出るのか分からなかった。
人によっては「9時半」と言うし、
また別のヤツによっては「午後にならないと来ないよ」と言う。
はいはい。でも今日中には来るんでしょ?
第一候補の9時半までは近くのカフェで
コーヒーをすすりながら待つことにした。
今日もプチ断食中だ。朝飯は食べない。だからイライラしている。
時間になって再びボート乗り場に言ってみたのだが、
思った通りボートは来ていなかった。

ここで厄介なのはボートが何時に来るか分からないし、
おまけにボートの到着を伝えてくれる人間がいるわけじゃない
ということだった。僕は船着き場で待っていなければならなかった。
昨日僕をここまで連れて来たボートの運転手がニヤニヤしながら
「マネー?」と声をかけてきた。
やはり昨日の80ドルはボっていたのだ。エグっ…。
ギターを弾いて待っていると10時半くらいにどこからともなく
別の男が現れて僕に声をかけた。

「カプルガナ?」
「そうだよ」
「チケットだ。15ドル」
昨日は25ドルという話を聞いていたが、
なんだよ!安いじゃないか!
僕は15ドルをすぐに支払った。
一応何かあった時のためにソイツの顔写真をiPhoneで撮っておいた。
僕がギターをケースにしまっている間に
男はフラリとどこかへ消えてしまった。
僕は焦った。
検問所の軍人に訊いてみても、
彼らは暇人で自分のスマートフォンしか見ていないので
「さぁ?」みたいな顔をしている。
マジ使えねぇっっ!!!
いや、アホはおれだ..。なんでこのタイミングで支払っちまったんだ?騙されたのか…???
てか15ドル超痛ぇぇぇ~~~~…。
幸いソイツは別の乗客を連れて戻って来た。
チケットとか言ってたくせにチケットなんてものは存在しなかった。
「教訓:ボートの支払いは
乗り込む直前か目的地に着いた後がいいでしょう」

これでようやくパナマともお別れだ。
ちょいちょい僕をイラつかせるヤツが多かったな。
コロンビアには期待したい。
カプルガナまでは20kmも離れていない距離だったが、
ボートは別の村に停まったり、
また別の場所でガソリンを補充したり、
結局一時間以上かかった。
一緒に乗っていたババアはぺちゃくちゃうるさいばかりか、
何度言っても「チーノ!」と僕を呼ぶので
終いには中指を立ててやった。
バーカ。おれはハポネスだっつてんだろ。
ってかお前らさ、最近思うんだけどさ、
中国人に失礼じゃねえか?何を根拠に見下してんの?
中国人の方がよっぽどお前らなんかより
まっとうに生きてると思うぜ?
あーー、ウゼぇ..。

あー、はいはい。カリブ海綺麗だねぇー(棒読み)
ようやくカプルガナに到着した時、ボートの運転手が言ってきた。
「荷物代5ドルよこせ」
「はぁ?
じゃあ一緒に乗ってた他の乗客はどうなんだよ?
ビール三箱持ち込んでいるヤツもいただろ?
バカか?」
僕は無視して歩いてその場から歩き去った。
ボートの運転者は何も言って来なかった。やはりボってきたようだ。
イミグレーション
は船着き場から歩いてすぐに場所にあったが開いていなかった。
鉄格子を通して中でファンだけが回っているのが分かる。
あそこで冷やしそうめんを食べたら美味しそうだ。
僕は先に宿を取ることにした。
ちょうど近くにドミトリー9ドルのホステルがあった。
安宿を探す気にはなれなかった。
昨日は野宿だったし、
生乾きの洗濯物をどうにかしたいと思ったのだ。
Wi-FiはSNSだけ無料で閲覧出来た。
宿のオーナーは大柄の欧米人(顔)の好々爺でシヴィリオさんと言った。
丁寧に施設の説明をしてくれたり、
明日の出発の情報を教えてくれたりした。
僕はまともな人間に会えたような気がした。
運のいいことにドミトリーは僕以外に誰もおらず占有状態だった。
僕はシャワー浴びてさっぱりすると、雨に濡れた洗濯物を洗い直した。
ドイツで買ったpatagoniaのサブバッグもこの時初めて洗った。
イミグレーションでの入国審査はあっと言う間だった。
出国チケットの提示も所持金の照明もなかった。
僕がカリカトゥーリスタ(漫画家)であることを言うと
管理官の一人がフレンドリーに「似顔絵を描いてくれ」と言ってきた。
おやすいごようさ。なんかいいね、こういうの♪


僕は身軽になるとちっぽけなリゾート地を歩きだした。
今日はゆっくりしようと思う。
次の目的地のメデジンへ行くためには、
まずはトゥルボという町に行かなければならない。
そのトゥルボ行きのボートは翌朝7時の便しかないのだ。
だからここで一泊しなくてはならない。
ここまで来るのにかかった費用は150ドル。
宿泊費やこのメデジンまでの移動費を考えたら
あと50ドルちょっとってとこか。まぁ上出来じゃない?
カプルガナの海沿いにはいくつかのバーが立っていた。
今朝までいたプエルト・バルディアと違い
綺麗で観光客向けの店だった。
「チーノ!」とかからかってくるバカはいなくて僕はほっとした。

人気のない静かなビーチを見つけると、
ハーフパンツでじゃぶじゃぶと海に入った。
海は透明度が高く、浮いているだけで気持ちがよかった。
ここまで船旅をしてきたカリブ海からのご褒美だな。僕はそう思った。

海から出たらポケットにめっちゃ砂入ってた。

まぁ、うん。コロンビアに来れたからよしとしよう。
カプルガナの中心地にはいくつかローカルな店があった。
どこにでもある小さな売店がいくつかと、
メシ屋、ビリヤード台を置いた若者たちのたまり場とかそんなだ。
どこかで乗馬ツアーみたいなのもあるらしく、
馬は場所を問わずウンチをボタボタとまき散らしていた。
住民はみな日中、陰に入ってだれているようだ。


いつも思うんだけど、あれ、誰が片付けるんだろ?
プチ断食、というか小食を僕はまだ続けていた。
「食べない健康法」を読む限り、
人間は一日三食摂らなくてもいいと書かれていたが、
旅先で必要最低限の栄養はどう摂れば分からなかった。
ここには蕎麦も生姜紅茶も黒砂糖も、ない。
いきなり1食以下にするにはあまりにキツイので
適度に食べることは必要だろう。
僕は売店でバナナを買おうと思った。
店の人間は馬にかかりきりでなかなかやって来なかった。
10歳くらいの店の女のコがやって来て
ようやくバナナが売ってもらえたのだが青バナナだった。
三本ほど買ってその場で一本剥いてみたが、
口の中の水分が一気に持って行かれるようなパサパサした味だった。
残りの二本はすぐに返品した。
女のコは算数が苦手らしくお釣りを間違えた。
僕が丁寧に説明してやると
「金は返したろ?もうどっか行けよ」という顔をした。
ちなみに現地人は青いバナナを揚げ物にするらしい。知るか。
脂でギトギトの物食べてコレステロール溜めてろ。
プチ断食の一環として、
グアヴァジュースとクッキーを一枚だけ食べた。
別の店でようやく黄色いバナナを見つけたので、二本ほど買っておいた。
またあとで近くを歩いた時に薄いチョコレート一枚を食べた。
それがこの日口にした食糧の全てだった。
付け加えるなら宿のコーヒーを小さなカップで
三杯ほど飲んで、タバコを一本吸った。

宿に戻るとあとはずっと作業をしていた。
漫画を描いたり日記を書いたり、合間にギターを弾いたりだ。
ドミトリーは僕以外に誰もいなかったが、
他の部屋は満室のようだった。
ギターを弾いていると物珍しそうに客の子供たちが集まった。
そんな中、宿のスタッフの娘さんに似顔絵を描いてあげた。
「ヒメナ」という可愛らしい名前だった。
写真を撮る時にとても素敵な笑顔をしてくれた。
描く側としてもそんなに喜んでくれると嬉しいよ。


20時くらいだっただろうか。
町は急に停電を起こした。
宿のスタッフはジェネレーターで電気を供給してライトをつけた。
停電は一度だけじゃなくて数回に及んだ。
そんなちっぽけで海の綺麗な町がカプルガナだった。
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