「アイツは負け犬さ」

世界一周660日目(4/20)

 

 

夜明け前の

バスターミナルには僕のように夜を明かす
黒人の兄さんが一人いた。

ぐったりしたその姿は、疲弊し切っているようにも見える。

8時になると僕は身支度を済ませバスターミナルを後にした。
後ろでターミナルの職員がそのお兄さんに
ピザを差し入れているのが見えた。

なんだかんだでこの国には
「助け合いの精神」があるような気がした。

 

 

 

ここはペンシルヴァニア州、ピッツバーグ

 

一発目のヒッチハイクは順調だった。

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外に出ると雨は止んでいた。

町の中心地はビルが密集していたが、植え込みには桜の木があり、
日本とは少し遅れて満開の桜を見ることができた。

空気はひんやりとしている。日本だと春が始まる前の空気に似ている。

僕はそんな空気を楽しみながら、ビルの間を間を歩いた。

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マクドナルドで朝食を済ませた後、
石鹸が小さくなっていたので5ドルのオーガニックの石鹸を買った。

面白かったのが「オーガニック」という言葉を使っても
店員に伝わらなかったということだ。

石鹸だからだろうか?

移民系のアジア人顔のおばちゃんに「ケミカルじゃないやつ」と伝えると、
おばちゃんはすぐに化学薬品無添加の石鹸を見つけ出してくれた。

包装紙にはきちんと「organic」ということばが印字されていた。
単に一番先に訊ねた店員が「オーガニック」という意味を
理解していなかっただけだろうか?

 

 

 

 

 

ピッツバーグの街は、ニューヨークほど巨大ではなかったので、
歩き回る分には苦労しなかった。

それに建物も味のあるものが多く、歩いているだけでも楽しめた。

やはり南部と北部、州や町によりアメリカの持つ顔は異なるようだ。
ピッツバーグの町を歩くとまた別の一面が見れたような気がした。

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朝のうちに僕が向かった先は
アンディー・ウォーホルの美術館だった。

Googleマップで場所を調べ向かうと、

 

 

入り口は
施錠されていた。

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タイミングを見計らったように月曜日のみ閉館と書かれている。

ちなみに今日は月曜日。
もうこれは縁がなかったと割り切るしかない。

 

 

こういう時に僕の諦めは早い。

そこまで美術館を楽しみにしていたわけじゃない。

美術館のために一日余分にここに滞在するつもりは僕にはなかった。

バックパックを背負ったままの姿で、
すごすごとアンディー・ウォーホル橋を渡ってダウンタウンへと戻った。

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ピッツバーグ

の町をしばらく歩き回ると
僕はすることがなくなってしまった。

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歩き回って行ける活動範囲は限られているので
見れる物も限られている。
そのため、特にこの町に面白味を感じなくなってしまった。

同じ通りを何度か行ったり来たりして
僕はセブン・イレブンに入り、一ドルのピザと
冷凍食品のブリトーを買って外の階段に座って食べた。

歩き回るとお腹が減る。

安いものしか食べない。
チョコチップクッキーとかそんなんばかりだ。
栄養なんてこれっぽっちも含まれてないだろう。

本当に最近ロクなものを食べていないなぁと思う。

階段に座り、サブバッグから手帳を取り出すと、
そこに簡単な日記のようなものを書いた。

 

 

 

こういう時にどうしたらいいのか?

同じ様な行動をしていても何も変わらない。

それならばー…

 

 

 

 

 

 

僕はダウンタウンで一番人の集まる場所を探した。

スターバックスなどがある広場では
ランチタイムのビジネスマンたちで賑わっていた。

広場の中心ではスポーツジムの勧誘みたいなブースも出ている。

ここならバスキングができるんじゃないか?

ニューヨークではちっとも路上演奏ができなかった。
せめて食費ぐらいは稼ぎたいところだ。

 

 

それでもすぐにはバスキングを始める気にはなれなかった。
ビビっていたのだ。

僕はバックパックを降ろし、
広場のテーブルでくつろいでいたホームレスに話しかけた。

彼らは同じ様な格好をしている僕によくしてくれた。

 

 

ノンスリーブを着た大柄のジョン
シェルターに関する話を僕に聞かせてくれた。

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この町にはホームレスを支援する施設があるようで、
無料で食事と寝床とシャワーが利用できると言うのだ。

ジョンはまるで自分の家のように
シェルターに来るように僕を誘ってくれた。

 

 

一瞬行こうか考えてしまう。

こういう「縁」があれば行ってもいいのではないだろうか…???

 

 

「そうだ。おれ、バスキングするんだよ。
そのためにここに来たんだ。でもさ、やっていいのかな?」

「何?!そうか!」

 

 

そう行ってジョンは僕を広場の中心まで連れて行った。

僕にはそういうバスキングを始めるきっかけのようなものを求めていた。

いやいや、彼がさ、やれってうるさいんだよ?とでも言うような顔をして、
半ば無理矢理やらされているような顔を作るが
心はウキウキしている。

ここで唄ったらどんなレスポンスを得ることができるのだろうか?

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すぐに手に汗をかいた。

ビルの真上にある昼の太陽が僕を照らす。

唄うのはもちろん自分の曲だ。

 

 

位置的にはそこまで良いポジションとは言えない。

人々は僕よりも10m先を歩いている。

コインを入れるためには
わざわざ僕のほうまで近づいてこなければならない。

最近は室内や地下道など、
音が反響する場所で唄っていることが多かったので、
外で唄うことがなかなか大変なことを思い出した。

声を張り上げないと歌なんて聞こえやしない。

自分の出している声がどれくらい人に届いているのかもよく掴めない。

そんな風にしてぎこちないバスキングは始まった。

 

 

3曲唄ってあまりにもレスポンスがないので、
場所を替えて唄ってみたのだが、すぐに警官に泊められてしまった。

どうやらこの町では広場でのみバスキングが
許可されていることが分かった。

三曲だけでは消化不良だった僕は、
結局元の場所に戻って、またバスキングを続けることにした。

 

 

唄っていると、少しずつだが
コインや1ドル紙幣がギターケースに入っていった。

特に歌を聴いてくれている様子ではなかったが、
なんだか僕の旅を応援してくれている、そんな感じのレスポンスだった。

ここで欲を出して喉をつぶしても仕方がないので、
僕は1時間程度でバスキングを切り上げることにした。

紙幣と25セントだけカウントしてみると16ドルが入っていた。

なんだ。時給換算したら結構いいじゃないか。

 

 

 

 

 

僕は路上演奏を終えたことをジョンに伝えると、
彼はこのあとどうするんだ?と訊いた。

僕がマクドナルドでコーヒーでも飲むよと言うと、
彼は僕をセブンイレブンまで連れて行った。

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僕に2ドルちょっとを出させコーヒーを買わせ、
残ったお金とチャージされたプリペイドカードのようなもので
支払いを済ませて彼はサンドイッチを買っていた。

セブンイレブンから出るとジョンはサンドイッチを分けてくれた。

 

 

 

彼は比較的聞き取りやすい英語を話したが、
話は脈絡のないものばかりだった。

僕はこのままマクドナルドで
大人しく絵でも描いていようかと思ったのだが、
彼はそんなことはおかまいなしだった。

「いいか、あそこに大きな時計が見えるだろ?
あれが目印だわかったな?」

と僕に自分たちがいる場所を覚えさせようとしている。

 

 

「いやさ、だからおれは
マクドナルドに行きたいんだ。
テーブルで日記が書きたいんだよ!」

「なに?そうか!ならついて来い!」

それなら最初っからマクドナルドでコーヒーを買えばよかったのだ。

 

 

 

 

マクドナルドに入ると、ジョンは定員に何か話をつけに行った。

これで店から追い出されても
しょうがないよなと思いながら、テーブルについた。

店内にはコンセントは見当たらなかった。
まぁ、アナログな作業メインになるだろうな。

 

 

ジョンは僕と同じテーブルに着いてまた何か話し始めた。

後ろのテーブルで一人でポテトを食べていたおじさんは、
僕のことを女だと思っていたらしく、ジョンはそのことをからかった。

そして今度は唐突に左腕を見せて
ドラッグがどうのこうの言っている。

彼の太い腕には血管を浮かせて
見えやすくするために縛ったであろうチューブの痕と、
注射を打った痕らしきものが見えた。

 

 

「よかったらうちに泊まってもいいんだぜ?
おれのベッドの隣りのヤツがつい最近死んだんだよ。
今ならベッドがひとつ空いているぜ?」

 

 

彼はシェルターのベッドのことを言っているのだろうか?
それともどこか他に寝泊まりする場所があるのだろうか?

いずれにせよ

「同居人が死んだ」

と言うワードに僕は警戒レベルを引き上げざるえなかった。

 

 

「悪いんだけどさ、おれ、
明日の朝にはこの町を出るんだよ?
だから泊まれない、かな?」

僕がそう言うとジョンは怒ってどこかに行ってしまった。

怒る理由が分からない。

 

 

 

 

 

「アイツはLoser(負け犬)さ」

 

 

と先ほど僕のことを女だと勘違いしたおじさんがそう口にした。

初めて聞いた生の「Loser」だった。
あぁ、なるほどこう風に使うのか。僕はやけに納得した。

 

 

 

 

 

 

 

それから

夜まではマクドナルドに籠って、
ニューヨークで製作していたマンガの続きを描いていた。

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漫画製作から5時間が経過し、トイレに以降と席を立った時、
隣りの席に座っていた黒人のお兄さんが
「お前ホームレスか?」と訊いてきた。

 

 

「いや、おれはトラベラーさ。ホームレスじゃないよ?」

「ほら、これ」

 

 

そう言ってお兄さんから渡されたのは20ドルだった。

一瞬遠慮して「ノープロブレムだよ」と断ったものの、
有り難くその20ドルを頂戴することにした。

お返しに似顔絵でも描こうとトイレから戻ると、
お兄さんの姿はどこにもなかった。

 

 

 

マクドナルドを出る前に、体には悪いと知りつつも
1ドルちょっとのチキンバーガーとサラダラップを食べた。

分かっているけど、空きっ腹に
マクドナルドはボディーブローをかましてきた。

小さい時から慣れ親しんだ味だ。

両親にマクドナルドに連れて行ってもらうのが
嬉しかったのを思い出した。

 

 

 

どんな国、どんな場所にあるマクドナルドでも、
注文すれば短時間で用意され、同じ味の商品を食べることができる。

それはとても便利でお手軽に思えるけど、
それらの商品(食べ物)がどのように作られているのかを知ると、
時々胸焼けのようなものを覚える時がある。

この利便性を否定するわけじゃないし、
僕はこの味を美味しいと思って生きてきた。

マクドナルドに連れて行ってくれた両親の思い出は悪いものではない。

マクドナルドが僕に与えてくれたものを考えると、
どうしてこうなってしまったのだろうと考える。

「毎日三食食べるわけじゃないんだから健康に影響なんて出ないよ」

とそう考えれば、脂の多いラーメンと変わらないのかもしれない。

 

 

 

いやいや、本当にそれでいいのか?

そして僕は「待った」をかける。

同じ品質を保つため、あまった食糧はゴミとして扱われ、
利益を出すために安価な、どこからやってきたか分からない
正体不明のメシが大量に作られるこのシステムがいいと思うのか。と。

 

 

どうしてこうなっちゃったんだろう?

原因の半分は僕たちもあるような気がする。

それでも作業場としてはかなり助かるんだけどね。
やっぱりそういうことだよね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

マクドナルド

をあとにすると、コンビニでシメのドーナツを買ってバスを待った。

バスに乗ってヒッチハイクポイントに近い
ピッツバーグの郊外で僕はバスを降りた。

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郊外は静まり返っていた。

町のメインストリートと思わしき通りには誰も歩いていない。
逆にその静かさが治安の良さにも思えたくらいだった。

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僕は小高い丘の中腹にテントを立てた。

丘の頂上にはホテルのような建物があった。
朝早い段階に出れば何も言われないだろう。

 

 

テントを立て終え、歯を磨いていると、誰かがやって来た

段ボールを手に抱え、何か言ってこちらに近づいてくる。

 

 

 

 

 

来客の男もまたホームレスだった

 

 

「こう寒くっちゃ眠れやしないぜ!」

的なことをわめいている。

 

 

そしてなぜだか僕のテントのすぐよこで段ボールを敷く。

僕は歯磨きをしながら男を観察した。

ダンボールで風よけを作ろうとするが、
段ボールは風にあおられすぐに倒れてしまう。

「シット!」とか悪態をつきながら段ボールと格闘し、
ふと「なぁ、おれもテントで寝かせてくれよ?」と言う。

もちろん僕は「ノー」と言った。
荷物を盗られたりしたくはないからだ。

横になり静かになったかと思えば
「マミー…、マミー」と呟く。

かと思えば立ち上がり、ふらふらと歩く。

突然狼男のように
「ウォォオオオオーーーー!!!」
と吠えたが、不思議と怖い感じはしない。

頭がイカれているのか、それともそう演じているのか?

僕は歯磨きをしながらソイツを見張っていた。

 

 

「なあおれもテントで寝かせてくれないか?」

「だめだ。それより、こううるさくちゃ眠れない。
どこか行ってくれないか?
おれも金を盗まれて外で寝る羽目になってるんだ」

 

 

これでナイフでも出されたどう対応しおうか頭の中でシミュレートし、
武器になりそうなものをチェックしておく。

ギターを盾にするしか思い浮かばないので、
手のとどかない間合いはひとまずキープ。
緊急事態の際は大声を出して20m先の丘の上のホテルに駆け込む。

 

 

結局、ホームレスの男はぶつくさと文句を言って丘を降りて行った。

僕は彼が彼の姿が見えなくなるのと同時にすぐにテントを片付け、
別の場所に移った。

 

 

 

 

やれやれ、今日はホームレスによく絡まれる日だ。

類は友を呼ぶとはまさにこのこと。

体臭が気になるところだ。

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