▷12月13日/ニュージーランド、オークランド
テント泊で何が一番気が滅入るかっていったら、寝ている最中に雨が降ってくることがそうだろう。
一年以上も使っている僕のテントはもはや小雨にしか対応していない。雨が本降りになると、テントの中は悲惨なことになる。何が悲惨って雨漏りがするのだ。テントの中に水溜りができるんだぜ?悲惨以外になんて言えばいいんだよ?
マラウィのンカタベイの宿のキャンプサイトでテント泊した時はマジでヤバかったな。あの時は洗濯バサミでテント内部に皺を寄せて雨水がそこに溜まるようにして、靴下やらタオルやら水を吸いそうなものを置いて防いだんだっけ?
テントを張る時はなるべく木下か屋根のある場所を選ぶようにしている。木下と言っても葉が生い茂っていないと、隙間を縫って降り注ぐ雨に濡れてしまう場合もある。
テントを打つ雨音を聞いて僕は飛び起きた。じっと耳をすまして、この雨が本降りになるのか、それとも一時的なものなのかを見極めようとした。テントの外に顔を出して雲行きをチェックする。
本降りにはならないように思えたので、僕は気にせずにそのまま寝ることにした。
雨は小雨のまま止むことはなかった。幸い浸水はしなかったものの、テントの内側がしっとりと濡れた。寝袋の足元が湿る。
あぁ、朝から憂鬱だな、バカヤロー。
そんな状態のまま眠ることはできず、時間だけが過ぎていった。僕は何度もテントの外に顔を出して雨雲が過ぎ去るのを待った。
9時前にようやく雨は止んでくれた。
湿ったままのテントをそのままケースに収納した。できることなら乾かしたいが、空は曇ったままだ。仕方ない。
バックパックを背負うと僕はダウンタウンへと向かうことにした。
滞在4日目にして一日の活動がルーチン化してきた。
午前中は図書館併設のカフェで日記を描いたり、ブログをアップしたりする。いわば作業時間だ。
コーヒーはアメリカーノのレギュラーサイズで3.9NZドル(¥318)もするが、たっぷり入っているし、過ごしだけ優雅な気持ちになれる。心にゆとりを持たせるのは大切だと思う。
Wi-Fiは毎回1時間しか使えないが、うまく時間調整をしてブログのアップなんかを済ませた。
作業の合間にバッグから本を取り出して数ページだけ読む。
今読んでいるのは「ライ麦畑でつかまえて」だ。
アルゼンチンの上野山荘にたまたまた置いてあるのを見つけた。宿の名前は本に書かれていなかったため、持っていた「深夜特急/香港、マカオ編」を置く代わりに持ってきたのだ。上野山荘には深夜特急の同じ巻があったけどね。
この話は最初、大学時代に原書で読んだ。その時はなんて描いてあるのか全くわからなかった。なんとか最後まで読み通し、村上春樹訳の本を買ってようやく内容が理解できた。
この本を読むのはこれで3回目ということになる。だが、翻訳者は野崎孝という人だ。
村上春樹の訳はハルキ的な文章で主人公のホールデン・コールフィールドはナイーブな感じで描かれていたが、
今読んでいる本では彼のダメっぽさ、悪ガキっぽさがよく描かれていると思う。
口語体で物語が進むので、訳の仕方によってこんなにも雰囲気が変わるものなのかと、同じ本でも新しい物語を読んでいる気持ちになる。僕の好きなのはやっぱり村上訳だけどね♪
昼筋には雲の合間から太陽の明かりが差し込むようになってきた。これなら路上パフォーマンスも大丈夫だろう。
うまく行けば、今日のバスキングで支払った罰金分400NZドルを回収できるかもしれない。
それに今日は日曜日だ。レスポンスもいいのではないかと、僕は考えた。
外に出てみると街はいつもより静かなように感じた。人通りはあるが人々が楽しそうに話す声はあまり聞こえなかった。
まずはギターを取り出し、一時間ほど歌った。気持ちよく歌うことはできたが、相変わらずレスポンスは薄い。ここでは弾き語りは気分転換くらいにとどめておくのがいいだろう。
ギターケースに看板をセットすると、僕はバックパックを椅子代わりに腰掛け、ボードを画板代わりににし、B4の紙に漫画を描き始めた。
外にいながら漫画の練習ができ、それでいてパフォーマンスにもなる。興味を持って持ってくれた人は似顔絵をオーダーしてくれる。出来上がった漫画は5NZドルで売る。一石四鳥にもなる。
今日も色んな人が僕に声をかけてきてくれた。外で漫画を描いてるだけで、出会いがやって来るのだ。それは弾き語りの比ではない。
クリスマスカード風に友達にプレゼントする子や、女の子の仲良し二人組。ちょっと興味本位で声をかけてきてくれた兄ちゃんは期待よりもいい似顔絵の出来だったようでご満悦の表情。
この日も同世代の日本人の女のコに会った。いや、あれは女のコって言うよりお姉さんだったな。
ナナさんはワーホリでファイナンス会社で営業の仕事をしている方だった。
僕が似顔絵を描いていると興味を持ってくれて隣に腰を下ろし、話をしてくれた。
オーストラリアのファームでもワーキングホリデーをした経験があるそうで、そこでドイツ人の彼氏さんに出会ったのだそう。
どこで暮らすかを決めるにあたり、『お互いにフェアな環境で暮らそう』ということでニュージーランドを選んだのだそう。ちなみに彼氏さんはホテルでコックをやっているそうだ。
「へぇ。それじゃあ毎日美味しいものが食べられますね!」
「いやぁ〜、彼、毎日疲れて帰ってくるから…」
ナナさんはちょっぴり残念そうに言った。
やはり飲食関係はどこも忙しいのだろうか?ホテルなんて聞くとリッチなイメージしかないけど、裏では鉄火場のようになっているのかもしれない。
ナナさんは僕にクッキーの差し入れをしてくれた。集中して疲れた脳みそには糖分が染み渡る。ありがとうございました!
この他に面白かったオーダーは「バットマンを描いてくれ」というものだった。
外で描いてるのでネットで画像を拾ってくるなんてできない。想像力に任せてバットマンを描いた。
おまけに彼は(そのオーダーしてきた人だ)、あとから「一緒に女のコを描いて欲しい」と注文をつけてきた。
バットマンと似顔をどう組み合わせたらいいのか一瞬困らされた。えっと、ダークヒーローとの絡みー…って感じでもないしなぁ。
どうやら、彼はガールフレンドにこの絵をプレゼントするみたいだ。
絵を渡す時に、彼の顔に笑顔を見ることができた。
そういうのを目にすると、描いてよかったなと思えるのだ。
今日のアガリは120NZドル(¥9,794)。今日も沢山の人と喋った。
これで罰金分の400NZドルは回収できたことになる。
まさか4日で稼げるなんて思ってもみなかった。
ふと、考え方を変える。
あそこで罰金を喰らったからこそ、漫画重視のバスキングのスタイルにシフトできたんじゃないか?と。
もし、何事もなくニュージーランドに入国できてしまったら、いつもどおりの弾き語り重視のバスキングだっただろう。
そうしたら、レスポンスは少ないし、『あぁ、やっぱ稼げねぇな』くらいに思って、一日20ドルくらいの稼ぎで満足してしまったかもしれない。
400NZドルのマイナスからスタートだったからこそ、稼がなければ生きていけなかったし、弾き語り以外のスタイルを打ち出す必要性に迫られたのだ。
ピンチがチャンスだったのだ。
今まで固執してきた弾き語りというスタイルを捨て、漫画重視のバスキングに切り替えたことにより、稼ぎはもちろんのこと、出会いも増えた。
外に出ている時間全てを漫画に注げる。話を作るにせよ、絵のタッチを変えるにせよ、ストーリー展開を変えるにせよ、常に新しいことを試せるのだ。
路上で漫画を描いているヤツは他にはいない。隣のバスカーの音楽を聴きながらお客さんと喋って僕は絵を描くことができる。これはパイの取り合いではないのだ。絵が売れようが売れまいが、これは僕の時間なのだ。
この調子で行けば、僕はきっとオーストラリアでも生きていけるだろう。
初めてコメントします。いつも楽しく読まさせてもらってます。絵を通して毎日色んな人達と出逢いがあるなんて本当羨ましい限りです。これからの旅ブログも楽しみにしてますね。
>じじいさん
コメントありがとうございます!
自分でもまさかこんなに人と繋がれるものなのかと驚きです。
常に新しい人を描くわけで、自分のスタイルの中でマンネリ化しないように絵を磨いていきたいですね。
このまま何かにつながればなお良しです。
またお気軽にコメントくださいまし♪
旅が順調でなによりです。 もう年賀状を必死で書くシーズンと
なりました。シミさんだったら漫画でどんな年賀状を描くのかなと
思いました。気分がのったらUPお願いします!
>あっきーさん
あぁ!そのアイデアマジでありがとうございます。
ってことは締め切りは12月31日までですね…。
うーーーむ。どんなの描こう?